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頂上対決『ロマチェンコvsリゴンドー』はなぜロマチェンコの圧勝で終わったのか

2017/12/15 22:53

ロマチェンコとリゴンドーによる頂上決戦は実力伯仲が予想されながらも、蓋を開けてみればロマチェンコの圧勝劇に終わった。戦前に言われていた体格差が大きなファクターだったのか、技術的に試合を分析した。

日本時間2017年12月10日に行われたWBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ『ワシル・ロマチェンコ vs ギジェルモ・リゴンドー』は、軽量級の頂上決戦として世界的に高い注目を受けることになった。

両者ともに五輪で連覇を達成し、プロに転向してからもロマチェンコは史上最速での2階級制覇、リゴンドーは18戦無敗と無類の強さを発揮し、共にパウンド・フォー・パウンドでも上位に位置する。

この一戦はリゴンドーがロマチェンコに合わせ、スーパーフェザー級まで一気に2階級を上げての挑戦となったため、戦前には2階級にも及ぶ体格差が要因としてロマチェンコ有利と囁かれていた。

しかしいざ蓋を開けてみれば、試合はロマチェンコのワンサイドゲームとなった。ロマチェンコはリゴンドーのディフェンスを意に介さず、異次元のスピードで連打をまとめ、リゴンドーが返しの攻撃を放っても空を切るばかり。

リゴンドーは接近戦となればクリンチでしのぐことに終始し、ホールディングから6Rに減点が取られると、そのラウンド終了時に棄権の意思を表明し、終わってみればいつものロマチェンコスタイルでのTKO勝利となった。

実力伯仲と見られていた両者になぜこれほどの差が出たのか、この試合について改めて振り返っていきたい。

スピードでリゴンドーが上回るとの声もあったが

試合で実際に両者が並ぶと、解説ではあまり体格差がないのではとも評されていたが、やはり2階級だけの体格差が両者にはあった。当日計量ではロマチェンコが約62.3kg、リゴンドーは約58.9kgと両者には3kg以上の体重差があり、何よりベースとなるフレームにハッキリと差が見られた。

もっとも体格差があるのは事前に織り込み済みであり、リゴンドーが瞬間的なスピードではロマチェンコを上回り、カウンターを軸にリゴンドーが優勢に進めることも可能ではないかという見方も存在した。

共にアマチュアで五輪連覇という実績、そしてサウスポースタイルであるが、そのボクシングスタイルは大きく異なる。

ロマチェンコは昔ながらのアマチュアボクサーというイメージで、変幻自在のステップワークと、異次元のハンドスピードを活かしたパンチの連打が特徴的ではあるが、手打ちであるため一発の威力には欠ける。

対してリゴンドーは基本的にはステップワークを使わずにベタ足、ロマチェンコのようにジャブを細かく刻むことは滅多になく、また左ストレートを真っ直ぐ放つことも少ない。むしろ上下に揺さぶる左アッパーや左フックが主体だ。

それでもリゴンドーがこれまで対戦相手を圧倒できたのは、瞬間的なトップスピードが群を抜いて高く、リゴンドーが待ちの姿勢でいることは分かっていても、スピードで対抗できずにカウンターを被弾してしまったり、それを貰うことを恐れて攻めきることができなかったためだ。

逆に言えばロマチェンコ戦でも、リゴンドーは瞬間的なスピードで上回ることで、ロマチェンコの連打を封じ、要所でカウンターをヒットさせることで勝利する可能性があるのではとも見られていたが、いざ蓋を開けてみればリゴンドーの光は完全に消されてしまった。

ストレートの間合いを維持し、リゴンドーのカウンターを封じた

今回、事前の予測を遥かに上回るほどロマチェンコが圧倒してみせた一つの要因は、懐の深さと距離感の良さにあるだろう。

リゴンドーはリーチこそ上回っているものの、左アッパー・フックに頼るスタイルで、攻撃のレンジそのものはストレートパンチを得意とするロマチェンコの方が長く、体格差もありロマチェンコの方が懐を深く戦うことができる。

しかしリゴンドーには分かっていても攻略が至難のカウンターがあり、そこを封じられるかがロマチェンコのカギだったのだろう。実際に序盤はロマチェンコはリゴンドーのカウンターを警戒してか、距離が近づいてリゴンドーがダッキングをしてもあまり手を出さずに出方を伺っているシーンが多かった。

それでもラウンドが進むにつれてロマチェンコの手数が増え、リゴンドーは対応できずに被弾が増える。一方で返しの攻撃を打ってもロマチェンコに触れることすらままならず、徐々にワンサイドの様相を呈するようになる。

そしてサウスポー同士であるため、リゴンドーは左アッパー、フックを当てるにはロマチェンコのインサイドに入らなければ有効な攻撃を放つことができないが、リゴンドーが踏み込んで攻撃しようにもロマチェンコは既にその場におらず、攻撃は空を切るばかりとなってしまった。

ロマチェンコとすれば序盤はリゴンドーのスタイルを警戒していたものの、ラウンドが進むにつれてリゴンドーの底を見切り、見事に攻略をしてみせた。

なぜロマチェンコだけがリゴンドーを攻略できたのか

リゴンドーは五輪で連覇を果たし、プロでも無敗街道を歩み、パウンド・フォー・パウンドでも上位に入るなど完全無欠の王者に見えるが、その実ボクシングの幅は決して広くはない。リードパンチを積極的に当てにいくこともなければ、真っ直ぐ伸びる左ストレートを放つことも滅多にない。誰が相手でもトップスピードを活かしたカウンタースタイルで上回ってきての勝利だ。

しかしそんな画一的とも言えるスタイルをこれまで誰も攻略ができなかったのは、ズバ抜けたトップスピードを持つリゴンドーのカウンターをもらわずに懐に入り攻めきれる選手が同階級に存在しなかったからだろう。

そしてロマチェンコがリゴンドーの攻略に成功したのは、リゴンドー以上のスピードを発揮し、また2階級のアドバンテージがあるために、常にリゴンドーよりも懐を深くして攻め続けられたことに尽きる。

ロマチェンコとリゴンドーはいずれもスピードに長けた選手であるがその性質は異なる。ロマチェンコは動きながら手打ちのパンチで波状攻撃を仕掛けるのに対して、リゴンドーはベタ足から一気にトップスピードに入り左の強打を放つ。

戦前はトップスピードであればリゴンドーが上回ると考えられていたが、いざ対峙してみれば結局はロマチェンコの動的なスピードがそれを飲み込んでしまった。そしてそれは両者の体格差も影響しており、ロマチェンコは体格差を自然と活かすことで、リスクを負わずにリゴンドーの間合いの外から試合を展開することができた。

これが仮に同階級の戦いであれば、ロマチェンコの攻撃にはある程度のリスクを伴うことになっていたはずだが、リゴンドーはそれも承知で試合を受けたのだからあくまで仮定の話でしかない。

むしろそれを遂行できたロマチェンコのスキルが驚異的であり、並の選手なら固まってしまう場面でも、何事もなかったかのように体勢を入れ替えたりと、リゴンドーの間合いに入らずに攻撃を展開できたことが賞賛されるべきだろう。

リゴンドーは拳を痛めて打つ手なしに

リゴンドーは試合後に左の拳を痛めたことを明かしており、後に骨折はしていないものの負傷したことが報道されている。

具体的にどの場面であるかは特定されていないものの、3Rの終了間際、左アッパーを放った際にロマチェンコの右肘を下から突き上げるように打ってしまう場面があり、その辺りで痛めたのではないかと推測される。

少なくとも5Rには左の手数がめっきりと減っており、従来からのスタイルとして左フック・アッパーに頼るリゴンドーにとっては拳を痛めたことは大きな痛手となっている。

他のボクサーならば奥手を痛めてもリードのパンチで試合を構成することはできるかもしれないが、リゴンドーに関してはそのスタイルもあって、左が出せなくなればワンサイドになってしまうのも止むを得ないだろう。5Rになるとリゴンドーは全くと言ってよいほど打開の術を失い、ロマチェンコに良いようにパンチを貰い続け試合はワンサイドの様相を呈する。

リゴンドーはクリンチを多用する選手ではないが、為す術がなくなったためかクリンチを多用し、ロマチェンコの腕を強引に塞いだことでホールディングを取られて6Rに減点を喫する。

減点が直接の原因になったのかは定かではないが、6Rの終了時にリゴンドー(または陣営)が棄権を表明したことで試合が終了した。

ロマチェンコはなんとこれで4試合連続で対戦相手のギブアップによるTKO勝利。『ロマチェンコ勝ち』とも呼ばれるフィニッシュだが、ロマチェンコはパンチが手打ちのため相手をバッタリと倒すことがない代わりに、余りのワンサイドゲームとなるために対戦相手の戦意を喪失させるという、ロマチェンコならではのフィニッシュシーンと言える。

リゴンドーは今後のビッグマッチは絶望的

今回敗れたリゴンドーだが、残念ながら今後同様のビッグマッチが組まれることはないだろう。

リゴンドーのアメリカでの評価はかなり低いものがあり、実際にトップランクより契約を解除されたり、ここのところは試合が満足に組まれない憂き目にもあっている。

それでも軽量級の新たなスターであるロマチェンコへ対戦要求をSNSで展開し、自ら階級を合わせることで今回のビッグマッチに何とかこぎつけることができたが、エキサイティングではない試合の末に棄権による負けとなったことで、再びビッグマッチにこぎつけるのは今後さらにハードルが高くなってしまった。

リゴンドーは既に37歳という年齢に加えて、WBA防衛戦の再戦指令をスキップして臨んだことから王座を剥奪されるのではとも言われている。まさに泣きっ面に蜂という状況だが、今後キャリアを再浮上させられるのかに注目したい。

対してロマチェンコは改めて軽量級スターの地位を確立した。ロマチェンコは日本で熱狂的なファンを抱えていることから世界的に人気が高いと見られがちだが、アメリカでは軽量級というカテゴリ自体への関心の低さから、前戦には中継の視聴者数が低迷するなど決して人気面で順風満帆ではない。

それでも今回の一戦では、近年では『パッキャオvsホーン』に次ぐ視聴者数を記録するなど、軽量級の枠を越えた関心を得ることに成功した。

一つキャリアの山となる試合をクリアーしたロマチェンコだが、強すぎるがあまり対戦を敬遠される傾向にあるのは変わらず、今後は以前より対戦を熱望していたマイキー・ガルシアへ、今度はロマチェンコが階級を上げて挑戦することを臨む声が多い。

もっともマイキーはリナレスとの指名戦が義務付けられていたり、マイキー自身も階級を上げることを視野に入れていることから対戦の機運が高まっているとはいえない。

パウンド・フォー・パウンド最強の一角とも言われているロマチェンコだが、果たして今後その実力に見合った人気を獲得し、ビッグマッチにこぎつけることはできるのだろうか。

クイール編集部 ◯文 text by Queel
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この記事へのコメント()

Uz0swhss
タカ
2017/12/15 23:41

やはり体格差は感じましたよね。WOWOWの放送を見ていて「体格差を感じない」というコメントには驚きました。

今回のロマチェンコのアウトボクシングは素人ながら芸術的だと感動しながら見ていたんですが、こういう考察を見れるとより凄さが伝わりますね。

こういった記事はどんどん欲しいです。

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ボブ
2017/12/16 00:43

的確で読み応えの有る素晴らしい記事だと思います。この試合、デラホーヤとヘナロ・エルナンデスを思い出しました。

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匿名ユーザー
2017/12/16 01:46

いやいや、リゴンドー本人が試合直後に2ラウンドの途中で痛めたと語っていたでしょう。
強いて言えば試合の興奮のせいで本人がラウンド数を勘違いしている可能性もゼロとは言い切れませんが。

実際に1ー2ラウンドは拮抗していて、3ラウンド以降いきなりリゴンドーが右手一本(見せるだけの左を数回使った以外)で戦っています。リゴの奪ノックダウンほぼ全部左なのに。。

当日朝の「体重戻しリミット」138lbをぎりぎりパスしたロマと、130lbのままだったリゴでは試合時に12-13lbのさがあったのもほぼ確実。

ケガがなくても体重差でロマ有利だとはおもいますが、一部の専門家まで単純にロマ強え、リゴ弱えみたいな風潮になってることには疑問を覚えます。

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匿名ユーザー
2017/12/16 08:06

ボクシングの知識が全くないので、正直リゴンドーって言われているほど強くないと思ってたんですが、腕1本で戦っていたんですね。

ボクサーは攻撃手段が左右のパンチしかないし、腕を痛めるのは致命傷なのか…

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象が飛んだ
2017/12/22 23:45

 二階級の体重差はどうしようも。せめて、中間のフェザー級でとも思うが。それに、リゴンドーはステップが広いから、責められた時、背中を丸めるかクリンチしかない。一方、ロマチェンコはステップが狭く自在に動けるし、多彩なパンチとフットワークで試合を優位に進め、序盤から的確なパンチを放ってた。
 拳を痛めたのは、少し不運かも知れないが、1Rで既に勝負ありみたいな感じだった。結果以上に力の差を感じた。

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ジェームス
2018/02/02 22:41

ある人がロマチェンコはソット・チタラダに似た選手で負ける時はKOだと。感の良さは確かに少し似ているが、チタラダをはるかに越えたボクサー、PFP最強に近い。

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