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UFCヘビー級タイトル戦「スティーペ・ミオシッチvs.フランシス・ガヌー」 の勝敗を分けたポイントとガヌーの伸び代とは【寄稿記事】

2018/01/30 20:20

クレジット: Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images

1月21日(日)に開催された『UFC 220』では、メインイベントにヘビー級タイトルマッチ「スティーペ・ミオシッチ vs フランシス・ガヌー」が行われた。

卓越したレスリング、ボクシング技術でヘビー級の頂点に君臨するミオシッチに対し、怪物ぶりをいかんなく発揮し、MMA歴わずか5年にしてタイトル挑戦にこぎつけたガヌーが挑戦。

戦前の賭け率ではガヌー有利との結果が出たが、蓋を開けてみればミオシッチがフルラウンドに渡ってガヌーをコントロールし、大差の判定勝利で王座の防衛に成功した。ミオシッチは盤石の強さを証明すると共に、ガヌーにとっては早くも限界説が囁かれる試合となった。

この対戦を振り返るにあたり、戦前に対戦評を行ってもらった格闘技ブロガーのgin-chang氏に、今回もまた「ミオシッチvsガヌー」の一戦を技術的な視点を絡めてレビューを依頼した。(※ブログ『Truth reflect on the canvas』を運営)

好評を博した前回の対戦評以上に、より深くこの一戦が考察されている。

ヘビー級タイトルマッチ「ミオシッチ vs ガヌー」

1月20日、アメリカ・ボストン、TDガーデンアリーナで開催された『UFC 220』。

メインイベントを飾ったのは、現UFCヘビー級王者スティーペ・ミオシッチと、ランキング1位の挑戦者フランシス・ガヌーによる、UFC世界ヘビー級タイトルマッチだ。

この試合で熱視線が送られたのは、前戦でアリスターを豪快にKOした挑戦者ガヌーの方だった。事実、試合前のオッズでも王者ミオシッチではなく、挑戦者ガヌーが有利という賭け率となっている。

ガヌーが王者ミオシッチすら豪快なKOパンチで葬り、新王者に君臨することで、アフリカ人初のUFC王者誕生というヘビー級の新時代到来を期待するファンの思いの現れでもあった。

そして、戦いの火蓋が切って落とされる。

1Rはファンの期待を裏切らない激しい肉弾戦が繰り広げられた。共にKOパンチャーである両者の重い拳が何度かお互いの顔面を捉え、いつ試合が終わってもおかしくない展開となる。安定した試合運びを見せるミオシッチの顔面にアザができ、ピンチに陥るのも珍しい光景だ。

ガヌーは本当に奇跡を起こせるのか、しかしその期待は2R以降、失望へと変化する。

突然ガヌーの足が止まり、ミオシッチのローキックもカットせずに受けてしまうと、容易にテイクダウンしたミオシッチが、ガヌーをケージ際に押し付けた上で、細かくパウンドを当ててジワジワとガヌーの体力を削ってゆく。

ラウンドが進むにつれ、ガヌーは疲労困憊の表情を浮かべながら、オクタゴンの中でギブアップせずにミオシッチの攻撃を堪えるのが精一杯の状況に追い込まれてしまった。

終わってみれば、判定は三者共に50-44の大差で、王者ミオシッチが3度目のヘビー級王座防衛に成功。反対に、挑戦者ガヌーはUFC王者という頂の高さをまざまざと痛感した上での完敗を喫している。

(クレジット: Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

2R以降、安定した試合運び見せていたミオシッチと、反対に失速してしまったガヌー。

筆者はそのターニングポイントは、激しい肉弾戦が繰り広げられた1Rにあったと分析している。では「スティーペ・ミオシッチVSフランシス・ガヌー」の運命の1Rを細かく振り返っていこう。

短期決着を狙ったガヌーと、それを見切ったミオシッチ

両者ともに普段はオーソドックスに構えるが、ガヌーは初回サウスポーに構える。サウスポー構えから踏み込んだガヌーは左ハイを放つと、そのままオーソドックスの構えに移行し、続けざまに大きく左フックを振る。

目が慣れていない序盤に、スイッチからの攻撃という変則的な組み立てでミオシッチの虚を突き、あわよくば秒殺KOを狙う意図があったのだろうが、ミオシッチはそのガヌーの左フックにシングルレッグでタックルを合わせ、テイクダウンを決める。

しかしガヌーはすぐに立ち上がり、ケージを背に脇を差されながらも、片手でミオシッチの首を持ってクリンチを振りほどき、スタンドへ戻る。

左右のフックを振り回し、ミオシッチにプレッシャーを掛けるガヌー。ミオシッチはケージを背にしながらもヘッドスリップでガヌーの拳を回避する。ゴールデングローブの州王者になったボクシングの実力者であるミオシッチからすれば、安直なパンチの組み立てに見えたのか。

だがガヌーは左を伸ばしてミオシッチの左ジャブを誘うと、外側からクロスカウンター気味に右を被せてヒットさせる。さらにヘッドムーブを多用して、真っすぐや横の打撃に対処しようとするミオシッチに対し、下からの軌道の右アッパーを当ててグラつかせる。

ガヌーのボクシングテクニックは粗さが見られながらも、時折センスに溢れる攻撃を繰り出し、その拳でもって多くの対戦相手を沈めてきている。その片鱗が見れた攻防だ。

ガヌーのパンチのフェイントに合わせ、ミオシッチがシングルレッグを仕掛ける。打撃とレスリングの両方に精通したミオシッチが、レベルチェンジの戦術により、流れを変えようとする。だがガヌーもケージ際でテイクダウンを防ぐと、ムエタイの首相撲の要領でクリンチを振りほどき、ミオシッチの展開に持ち込ませない。

1Rの序盤という事もあり、ガヌーもテイクダウンを防ぐ余力がある。

しかし1R中盤になると、ミオシッチの右がガヌーのアゴを捉える。この辺りから、ミオシッチがガヌーのパンチの軌道や射程距離をインプットし始め、ガヌーのパンチが空を切る場面が出てくる。

パンチを避けられ、ムキになって打ち気に走ろうとするガヌー。そこへミオシッチが待ってましたとばかりにタックルを仕掛け、テイクダウンに成功する。

サイドポジションからアームロックを狙い、頭を抱えてフロントチョークを仕掛けようとしたミオシッチだが、入りが浅くガヌーはその隙に脱出してスタンドに戻る。しかし、倒しに行こうと躍起になったガヌーのパンチは大振りになってしまう。

反対に、怪物ガヌー相手にも心理的に動じず、冷静に自分の試合を遂行した王者ミオシッチは、ガヌーのパンチにリターンで右ストレートを当て、さらにワンツースリーから最後にテイクダウンを決め、第1Rを終えた。

1Rの攻防から見える両者の差とは

(クレジット: Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

こうして振り返ると両者のMMAファイターとしての実力差が1Rの中で既に垣間見え、2R以降でそれが如実に現れたと言えるだろう。ではフランシス・ガヌーが2R以降失速し、結果的に敗北を喫してしまった原因はどこにあったのか。

一つ目はMMAファイターとしての総合的なスキルと経験値の差だ。王者ミオシッチは2010年にプロデビューしているが、実は2006年に既にアマチュアMMAでデビューしており、通算6勝の勝ち星を上げている。

加えてアマチュアボクシングではゴールデングローブの州王者に輝き、カレッジレスリングではディビジョン1に選出される実力を持つ。近代MMAにおいて「ボクシング」と「レスリング」というスキルは、MMAにおける打撃・寝技というそれぞれの分野において必須とされているものである。

プロMMAデビュー前から、その下地を既に兼ね備えているからこそ、ミオシッチは全ての展開に対応できるオールマイティな試合運びを行使できる。

対照的にガヌーは2013年にプロMMAデビューを果たしたものの、実質的なMMA歴はわずか5年だ。

規格外のフィジカルとパワー、そして天性の当て勘の才能によりUFCのタイトルマッチに上り詰めたが、これまでのキャリアでは2Rを戦ったのが最長であり、そのほとんどが打撃によるKO決着だ。寝技による一本勝利は4つあるが、ローカル時代はパウンド禁止のMMAルールで戦っていたこともあり、グラウンドの展開は苦手な部類に入る。

ガヌーにとっては初の5Rマッチであり、長期戦に持ち込まれるとスタミナに不安がある。

おまけに前回のアリスター戦からわずか1ヶ月半というショートノーティスでのタイトルマッチのオファーだったため、ミオシッチ対策に充分な時間を取れなかったのもガヌーにとっては痛手だった。純粋なグラウンドスキルではミオシッチのほうが上回っており、ガヌーとしては必然的にスタンドでの短期決着勝負で決着を付ける以外に方法は残されていなかった。

二つ目は、ガヌーのパンチが全体的に大振りになってしまったことだ。

前述の通り、ガヌーはスタンドでの短期決着勝負に挑む意外にミオシッチを倒す方法が無く、早く倒そうという意識から、必然的にパンチを繰り出す際に力みんでしまい、大振りが目立っていた。

振りの大きなパンチは相手にモーションを察知されやすい。パンチを打つに時は前足に体重がかかり、後足カカトが浮くため、MMAにおいては相手に打撃を読まれるとカウンタータックルの餌食になりやすい。

ラウンド全体を通して、レスリングのバックボーンを持っているミオシッチが、ガヌーのパンチのタイミングに合わせてタックルを仕掛ける場面が何度も見られた。そして大振りの打撃を多用すれば何よりもスタミナロスに繋がる。

5Rという長丁場を戦うのに、1Rからいきなり短距離走をしてしまっては、中盤以降のスタミナが持たなくなってしまう。1Rこそミオシッチにテイクダウンされてもすぐに立ち上がったガヌーだが、スタミナが切れた2R以降は、ミオシッチのケージレスリングに押さえ込まれる一方だった。

三つ目は、攻撃の組み立てがパンチ偏重だったことだ。

開始早々はガヌーのパンチがミオシッチの顔面を捉える場面があったが、やがてミオシッチがパンチの軌道や射程距離をインプットしたことで、ガヌーのパンチが空を切る場面が増える。

いくら豪腕パンチを武器とするガヌーといえども、アマチュアボクシング出身であり、相手のパンチやその防御に対する洞察力に優れたミオシッチを相手に、ほぼパンチのみの打撃では試合が長引くにつれて攻撃を読まれてしまう。

練習ではガヌーが強烈なローキックを放てるとの情報もあったが、この試合でローキックを蹴った場面は一度も見られなかった。MMAなのだからパンチだけでなく、キックを織り交ぜた打撃の散らしで、相手に攻撃を読まれない工夫をすることも必要だったのではないか。

ガヌーの首相撲に光るものがあり

ミオシッチの老獪な試合運びの前に持ち味を消されてしまったガヌーだったが、一方で光る部分もあった。その一つがクリンチ際で首相撲を有効に活用していた場面だ。

1R、ガヌーがミオシッチに脇を差され金網に押し付けられた展開で、ガヌーがミオシッチの首をロックしてクリンチから脱出する場面が2度見られた。

ガヌーは、K-1で活躍したジェロム・レ・バンナ、デューウィー・クーパーをコーチに迎えていることから、首相撲の技術はおそらく彼らから伝授されたものであると推測される。

首相撲は元々はムエタイの技術だが、MMAでも様々な場面で有効活用されている技術の一つだ。熟練した首相撲巧者を相手にすると、首の裏側を両手でロックされただけで身動きが取れなくなってしまうという。MMAの試合において、首相撲、クリンチからの打撃で勝負が決まった試合は多い。

相手の首を制して打ち込む首相撲からの膝蹴りは、元UFCミドル級王者のアンデウソン・シウバが、2006年にリッチ・フランクリンと対戦した際、首相撲でロックされたフランクリンがボディに膝を貰い続け、最後は顔面への強烈な膝蹴りでKOされた試合が印象的だ。

首相撲やクリンチの攻防では相手と密着した距離になるので、肘やショートのパンチといった攻撃も当たりやすい。

MMAでは肘をKO武器としている選手は少ないが、UFCライト級のポール・フェデラーや、UFCウェルター級のアラン・ジョウバンがそれぞれ肘で相手をKOしたことがある。クリンチからのパンチ、いわゆる「ダーティーボクシング」は、カレッジレスリング出身の選手が得意としている。

レスリングの試合は組み手から始まるので、組み手の攻防で培った技術をMMAではクリンチ打撃に応用して活用している選手は多い。現UFCライトヘビー級王者、ダニエル・コーミエや、UFCライト級の激闘王、ジャスティン・ゲイジーらレスリング出身の選手が、ダーティーボクシングに定評がある。

また、首相撲で相手の首をロックして頭を下げさせた後、そのまま連動して相手の首を抱え込んでクラッチし、そこからフロントチョークやギロチンチョークといったサブミッションで一本を取るという、MMAならではの技術も存在する元。K-1王者であり、首相撲からの膝蹴りに定評のあるアリスターは、チョークを得意としており、2005年のアブダビコンバットでは、ギロチンチョークによるオール一本勝ちで欧州予選を勝ち抜いた。

近年のUFCの試合では、フェザー級トップランカー、ブライアン・オルテガが、カブ・スワンソンを相手に、スタンドの状態から首を抱え込み、両足を相手の背中にフックさせてのギロチンチョークで一本勝ちを決めている。

本記事では紹介できなかった技術も含めて、MMAにおける首相撲の展開はムエタイのそれとはまた違った奥深さがある。

(首相撲からの打撃は以上の動画を見るとより分かりやすい)

今回の試合でガヌーはクリンチからの脱出手段として、首相撲を活用していた。

ストライカーのガヌーに対し、相手は組み付いてからテイクダウンで展開を作ることが求められるので、ガヌーとしてはテイクダウンされないためにも、今後は攻撃手段としての首相撲からのバリエーションを増やしていけば、あれほどのフィジカルとパワーを秘めているだけに更に脅威となるはずだ。

盤石のミオシッチと、限界説が出始めたガヌー

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最強挑戦者のフランシス・ガヌーを退け、UFCヘビー級として最多3度目の王座防衛に成功したスティーペ・ミオシッチ。

次回の防衛戦は7月7日に開催される『UFC226』で、ライトヘビー級王者のダニエル・コーミエと階級を越えた夢の王者対決が予定されている。

レスリングとグラップリングを得意とするコーミエが相手だけに、ガヌー戦とは全く違った戦い方が見られるだろう。オールマイティな王者ミオシッチは、ヘビー級でも無敗の強さを誇るコーミエをいかなる戦術で切り崩し、攻略するのだろうか。

一方で王者ミオシッチの前に完敗を喫し、タイトル獲得とはならなかったフランシス・ガヌー。一部海外メディアからは、ガヌーは「これ以上の伸びしろはない」「もう天井を打った」とのネガティブな話も流れているようだ。

しかし試合中にスタミナが底を尽きながらも、一発逆転を狙おうと最後まで試合を投げ出さずに、ミオシッチのレスリング地獄に耐え続けたガヌーの精神力の強さは、評価に値すべき部分だろう。

試合後のインタビューで「この敗戦で多くの事を学んだ」と謙虚に語っていたガヌー。今回の敗戦は、トントン拍子で世界最高峰のタイトルマッチまで上り詰めてきた感がある彼にとって、必要な経験だったのかもしれない。

この試合で浮き彫りになった課題を修正し、さらなる強さを磨いていけば、一部で流れているネガティブな意見を払拭し、今度こそはUFCのベルトを腰に巻く日もそう遠くはないはずだ。

さらなる栄光と強さを手に入れた両雄が、再びUFCのタイトルマッチの舞台で拳を交えた時、その闘いはまさに「人類史上最強決定戦」に相応しい試合となるに違いない。

(※本記事はブログ「Truth reflect on the canvas」に掲載された記事を、著者の許諾を得て、クイール編集部にて監修した内容を掲載しています。)

クイール編集部 ◯文 text by Queel
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gin-chang
格闘技ブロガー

2002年のボブ・サップフィーバーから格闘技に関心を持つ。格闘技バブル期は主にK-1を視聴し、地上波から打ち切りになってからは、UFCの競技レベルの虜となりUFCファンとなる。現在もUFCを中心に格闘技を観戦中。

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この記事へのコメント()

2016 11 20 13.43.09
たわし
2018/01/31 14:35

あくまで一意見として、やや冗長な記事に感じました。
もちろん良い試合を振り返る記事は歓迎なのですが。

Missing avatar
最強
2018/02/01 13:55

セコンドが「ゲームプランを全部無視しやがった」と怒っていた これがすべて あんなにいきなり攻めてもKOなんてできるわけがない