Queel
×
サイト内を検索する
  • 格闘技
  • コラム

卜部功也と対戦するヤニック・レーヌの弱点とは?卜部vsレーヌの試合を技術的に考察してみました。

2017/07/11 17:19

(C) Good Loser

9月8日に開催されるKrush.80にて、卜部功也がヤニック・レーヌを相手に再起戦を行います。レーヌは日本では全く無名の選手ですが、欧州ではトップレベルの実績を持つ強豪選手で卜部にとって簡単に勝てる相手ではありません。この試合について技術的な観点から深く掘り下げてみました。

卜部功也がKrush.80で欧州の強豪を相手に再起戦!

昨日投稿した「卜部功也と戦うヤニック・レーヌはガチの欧州最強選手!レーヌについて詳しく紹介!」において、卜部vsレーヌの展望についてインタビューを行うを予告した記事がこちらになります。

この記事から読み始めた方のために説明すると、9月8日に開催されるKrush.80にて卜部功也の再起戦の対戦相手が、欧州の強豪であるヤニック・レーヌに決定しています。

前回の記事ではヤニック・レーヌが欧州最強の選手では?という趣旨で詳しく紹介してみましたが、この記事は試合の展望を技術的な視点から紹介したものとなります。

技術系のネタに強い方を広く募集して今後インタビュー記事を出そうかと思っていたのですが、今回はたけしを名乗る謎の人物にインタビューしてみました。

それでは早速どうぞ!

インタビュー内容はこちら

ー たけしさん宜しくお願い致します。たけしさんはキックボクシングに結構詳しいという認識で間違いないですか?

始めに断っておくと「たけし」という名前は突然インタビューに呼ばれて急遽つけた名前なので、特に元ネタはありません(笑)

そして自分で詳しいっていうのはアレですけど、前には試合していたり、海外キックボクシングも好きで追ってましたよ。

ー おお経験者なんですね!じゃあ…今回は期待して良さそうですね。

ええと…一つ突っ込みいれていいですか?

格闘技ファンの間で「経験者信仰」みたいなのが結構根深く残っている気がするんですけど、少なくとも自分の知る限り競技者ってそんなに詳しくないんですよ。海外キックボクシングを追ってる人なんて今まで出会ったことないです。

自発的に色々な選手の試合を見て研究されてる方のほうがよほど詳しいと思いますし、僕もファンの方のブログ見て勉強させてもらってますよ。

ー そうなんですね!経験者って競技への造詣が深いというイメージがあったので意外でした

まあ人によるとは思いますけど、やっぱり立ち技系の選手ってフルタイムで働きながらプロでやってる人が多いので、そういう境遇だと練習終わりが10時とか11時になっちゃったりするのでなかなか研究する時間なんて取れないですよ。

ー そうなると…ちょっとこのインタビュー不安になっちゃうんですけど大丈夫ですか?

そこはまあ…この試合に関しては事前に結構調べてきましたし、卜部功也選手についてはK-1甲子園の時代から見てきたので大丈夫だと思います!

ー 今回クイールの新しい取り組みとして、技術に詳しい人に試合の解説をしてもらおうということで、今回Krush.80で卜部功也選手の対戦相手がヤニック・レーヌ選手に決まったんですけど、この試合をどのように見ているのか、第一感をまずは聞かせてください

初回で自分なんかを起用するあたり人脈の弱さが現れてるような…(笑)

それはさておき、所感としてはKrushも卜部選手も凄くリスクを取ったなと。そこにまずは頭が下がる思いです。

キックボクシングの世界王者といっても選手の実力はピンキリで、ISKA世界王者というのは何かと日本でもよく見る称号なんですけど、凄く強い選手もいれば正直さほどでもない選手もいたりと玉石混交なんです。

通常の団体ならば、その団体で下積みを積んでランキングや地位を上げてタイトルマッチを行うという形式が一般的なんですが、ISKAの場合はランキングというシステムを設けていないのでいきなり世界戦ができちゃうんですよね。

それにISKAはK-1ルール、オリエンタルルール、ムエタイルール…といった感じで各階級で5つのルールを設けていて、世界王者が凄く多いんですよ。試合が組まれる経緯を見ると政治的な要素も大きくて、ISKA世界王者と聞いても個人的には少し疑うように見ています。

ただそんな中で、このヤニック・レーヌは本物の選手です。お世辞じゃなくて本当にそうなんです。

まず実績として凄いのは現ルンピニー王者のラフィ・ボーヒックにムエタイルールで勝っていること。タイ人以外だと確かボーヒックが史上3人目のルンピニー王者だったはずです。

そして次に欧州裏最強説のあった(エディー・ネイト・)スリマニに勝っていること。この二人に異なるルールで勝利しているという実績だけでも外れのない選手というのは断言できます。

A post shared by Rafi BOHIC (@rafi_bohic) on

(現ルンピニー王者のラフィ・ボーヒック)

ー なるほど!それだけ聞いてるとレーヌはやっぱり最強の選手なんですかね…?

ただ、これは後でまた説明するつもりだったんですが、その裏を取るとまたちょっと違った見方になってきます。

まずボーヒックなんですが、結構曰く付きの王者で、ルンピニー王者を取ったといっても元王者だったポンシリーとは短期間で3回も対戦していて(※タイトルマッチは2度)、そのうち2回は敗れて、最後の対戦で勝っています。それに実は昨年からの戦績を見ると負け越しているように、チャンスをたくさんもらってその中の一つをモノにしたというタイプの王者です。

そしてスリマニとの対戦なんですけど、この試合はレーヌにとってチャレンジングな試合で、横綱相撲をして勝ったというわけではなく、終始下がらされながらも攻撃をかいくぐってポイントアウトしたという内容で、もしかしたら団体によっては前に出続けたスリマニの勝利にしていたかもしれません。

ー 試合結果を見ただけでは分からないところがあると

まあそれでも勝利しているのは揺るぎない事実なので、実力が疑わしいというわけではないですよ。あくまでこの実績を持って最強と決めつけるには早計だということです。

ここでちょっとヤニック・レーヌの根幹であるファイトスタイルについて説明していいでしょうか?

レーヌはフランスの選手なんですけど、フランスはムエタイ大国ということもあってムエタイをベースにした選手が多いです。レーヌもK-1ルールの試合を多くこなしているとはいえムエタイがバックボーンにあるように見えます。

それでいてパンチの打ち方やステップを見るとアマチュアボクシングの選手のような要素があります。具体的にどういうことかというとパンチをズドンと力強く打つというよりも、流れの中でコンパクトに打ったり、常にピョンピョンと跳ねて相手の攻撃をいなすことを前提に立ち回るということです。

個人的なイメージとしては「ムエタイ+アマチュアボクシング」というタイプですね。

あとは何よりサウスポーの利点を強く出した戦い方で、遠目から左ストレート、腕への左ミドルを得意としています。

ー ええと…サウスポーの利点というのはどこにあるんでしょう?

サウスポーとオーソドックスというのは非対称性があって、オーソドックスの選手を鏡写しにしたらサウスポーになるというわけではないんです。というのもサウスポーであれオーソドックスであれ対オーソドックスを前提に普段から練習するので、例えば蹴りなら左の蹴りを重点的に練習することが多いです。

これはサッカーとかでもそうなんですが、左構えの選手って右が下手な選手が多いんですよ。それは普段、左だけで何とかなってしまうので右を使わなくても誤魔化しが効いてしまうというのが理由だと思います。

サウスポーvsオーソドックスの場合、利き手(・利き足)の攻撃が相手の正面にあたるので、威力も高いですし相手も捌きづらいという特徴があります。ローキックよりも左ミドル、ジャブよりも左ストレートがより有効になるので、それらの攻撃が最も出しやすい遠い間合いで攻撃を組み立てる練習を普段から積んでいるというのがサウスポーの利点だと考えています。

もちろんサウスポーだからといって実際には色々なパターンがいて、一概には言えないんですけれども、レーヌがサウスポーの一つの典型的な戦い方をする選手だということです。

例えば「左ストレートから左のローキック」といったペトロシアンが得意にしていたコンビネーションも良く使うんですが、これはオーソドックスの選手がサウスポーに使うには普段から相当サウスポー慣れしてないとなかなか使えない技ですね。

ー そういえば卜部もサウスポーですね。そうなるとサウスポーの利点というのが消えてしまうような気がします。

実はサウスポーの選手って、オーソドックスの選手以上にサウスポーが苦手だったりするんですよ。

これは練習環境に依存するんですけど、例えば日頃から練習するジムメートが5人いたとして、その中に大体1人くらいサウスポーの選手がいたりします。するとオーソドックスの選手は一人のサウスポーと練習できるんですが、そのサウスポーの選手はサウスポーと練習する機会がなくてより苦手になっちゃうという。

そういう意味ではトレーニングパートナーが充実してるジムの方がサウスポー同士という巡り合わせでは有利かもしれませんね。

あと卜部選手って多分右利きのサウスポーなんですよ。右手の使い方が明らかに利き腕じゃないとできないような使い方になっていて、左ストレートもナチュラルとは少し違う打ち方をします。

逆にレーヌはおそらくナチュラルのサウスポーで、よりサウスポーらしい戦い方をしますね。この点からするとサウスポー同士で有利に働くのは卜部選手じゃないでしょうか。

ー …というのはどうしてでしょう?

サウスポー同士の場合、右の攻撃が有効になることが多いです。サウスポーの選手は概ねそうで、レーヌもそうなんですけど、右手を比較的自由に使いつつ、左手はアゴの横に添えられています。

そういう構えだとどうしても左のパンチはグローブで弾かれたり肩で軌道を遮られてしまいがちなんですが、右のジャブを真っ直ぐ打てるとアゴの横に置いてある手の反応が鈍くて意外と簡単に当たることが多いんです。

卜部選手は右手がおそらく利き腕ということもあって、パンチというよりも触りにいくような形でポンポンと連打して、相手がそれに反応すると左ストレートから右ミドルというコンビネーションまで繋げたりします。ゴンナパーとの試合でもこの触りにいくような右ジャブが起点となっていることが何度か見られました。

レーヌのサウスポーとの試合は実はまだ見ていないので、そこは未知数なんですが、サウスポーのセオリー的に外側から弾くようにジャブを打つタイプなので、右の差し合いでおそらく卜部選手が負けることはないと思います。

ー なるほど、そうなるとやはり卜部選手が有利なんでしょうか?

うーん…。なかなか難しいところですが現状そうだと思います。

というのもザッと試合を見たところレーヌはK-1ルールの試合を多くこなしているとはいえ、Krushのようなテンポの早い試合となるとスリマニとの試合しかなかったような気がします。

レーヌはK-1ルールでも同じフランスの選手とばかり対戦していて、フランスの選手ってどうしてもムエタイのリズムが染み付いてるのか、Krushで戦う日本の選手よりも大分テンポが遅いんですよね。おそらく他の欧州選手がK-1やKrushであまり勝てていないのはそれが影響していると思っていて、普段から早いテンポの試合に慣れていないから実力を発揮できていないのではないかと。

レーヌはスリマニが早いテンポで仕掛けてくると、その他の試合とは違って下がらされる場面が目立ちました。これはなぜかというとレーヌは相手が前進してくるとガードや腕で受け止めるのではなく、下がったり横に回ったりして捌くタイプの選手だからです。反対に卜部選手はそれほどブロッキングには頼らないですが、腕を使って相手の攻撃を防げるので、前進を続けられるんだと思います。

だからレーヌは相手が前進を続ける選手だと、どうしても下がってしまって強い攻撃を返せなくなるのが弱点じゃないのかなと。

ー なるほど。卜部選手はテクニシャンのイメージがありますが、その弱点をつけるのでしょうか?

卜部選手は個人的なイメージとして(新生)K-1以前と以後でスタイルを変えてますよね。

以前から圧力が強い選手ではあったのですが、比較的距離を取って安全な距離からコンビネーションや上下の揺さぶりをして、流れの中で倒す選手だったんですが、K-1以降は自分から距離を潰して倒しに行く攻撃を出すことが格段に増えています。

これは他の競技でもそうだと思うんですが、スピードや技術の素地みたいなものは比較的若い頃に定着して、20代以降は肉体的な成長がメインになります。昔の卜部選手は少し体が緩い印象もあったんですが、今は同じ体重でも体が締まって筋肉量が増えているのではないでしょうか。

なので若い頃に習得した技術の上に、キャリアを積んでいくに従ってフィジカル面を底上げして今のスタイルになっているんだと思います。根っこの部分はテクニシャンであり、K-1以降に後天的にインファイトも得意にしたという印象を勝手に持っています。

卜部選手は今回練習から倒しに行く意識を強めていると話していますが、おそらく後者の部分を重点的に上げているので、それはすなわちレーヌ対策にもなると思いますよ。

ー おお、なんか説得力がありそうな話に聞こえてきます!個人的には見た感じスピードはレーヌの方があるように感じたのですが

レーヌは黒人選手特有のしなやかさがあって、脱力して攻撃した時のスピードはなかなか日本人では出せないものがありますね。

バックステップしている時もバランスが良いので、相手をしっかりと捌ける時の動きは卜部選手よりも早いと思います。

ただ卜部選手が距離を潰して戦えればその強みは半減するはずです。右のパンチを内側からコンパクトに放てるので、近距離からでも強い攻撃をだせますし、歩きながらの左ストレートなど追撃も上手ですし。

ー そういえばレーヌって凄く勝率が良いんですよね。現在9連勝中と並に乗っています。

しかも直近に敗れたサイボーグ・ワラスという選手との試合なんですが、終始優勢に進めていて、割りと事故のような形でバック肘を貰ってKO負けしているので、実力負けではないんです。だから地力でハッキリと差をつけられたことってほとんどないんじゃないんですかね。

あとスリマニとの試合なんですが、結構危なっかしい場面があったものの、すんでのところでクリーンヒットは貰わないんですよね。力が抜けていて体が柔らかいからギリギリまで動いて急所を避けているのではないでしょうか。

だから卜部選手が圧力をかけても、ギリギリでかわされ続けてポイントアウトされて敗れるというイメージは多少ありますよね。

でも結局のところKrushと欧州の舞台では試合のテンポもそうですし、細かいところで言えばマットやロープの質感であったり、リングの広さも違うかもしれませんし、周りの環境も全く別なので、レーヌがKrushでどうなのかは試合をしてみないと分からないと思います。

たまにイタリアでしていたりするみたいですが、レーヌは地元フランスでの試合ばかりなので、Krushの舞台に立った時「何か違うぞ」と思わせられれば大分違うと思います。日本人が他国に遠征すると思うように勝てなかったりするのと逆のパターンにもっていければ、ということですね。

ー なるほど。初回にしてたけしさんから濃密なお話を聞けて楽しかったです。最後に何かあるでしょうか?

正直、Krushも卜部選手も楽をしようと思えばいくらでもできたと思うんですよ。先程も言ったように欧州のタイトルホルダーと言っても玉石混交の世界ですので。

その中でレーヌという相当な実力派をあえて選んだという姿勢には本当に頭が下がります。

卜部選手はゴンナパーとの試合でアゴを折られて悔しい敗戦をしていますが、ここは絶対に負けられないと固くなってしまったら相手の思うツボですし、その中で平常心で臨めればきっと勝利してくれると思ってます。

それと今回は偉そうなことばかり言って申し訳ございません。自分なりに思ったことを率直に話させていただきました。こんな戯言を最後までお読みいただきありがとうございました m(_ _)m

最後に

今回は初めての試みとしてこのような技術的な考察をインタビュー形式で行ってみました。

いかんせんかなり人を選びそうな内容ではあるので、今後続けるかどうかという指標としてもぜひTwitterなどで率直に感想など頂けると幸いです。

クイール編集部 ◯文 text by Queel
Queel icon
クイール編集部
格闘技メディア

格闘技メディア「クイール」編集部

クイールをフォローして
最新情報をチェック!
最新の格闘技ニュースをお届けします