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【土屋修平インタビュー後編】練習で強くなるより営業の方が稼げる?ボクサーの手売りの実態とは。

2017/10/25 18:35

第60代日本ライト級王者である土屋修平へのロングインタビュー後編。前編では「ボクシングはなぜ稼げないのか」をテーマに掲載したところSNSで話題が沸騰。前編に続いて後編も1万6000字の大ボリュームでお届けする。

現役時代からボクシング界に対して歯に衣着せぬ発言と共に賛否両論の議論を起こしてきた、"ボクシング界の異端者"第60代日本ライト級王者の土屋修平。

プロボクシングのビジネスのあり方や、会場づくりの課題、選手の興行での振る舞いなど、様々な観点からボクシング界に異論を唱えてきた土屋にロングインタビューを行い、その一部始終をお届けする。

前編は「ボクシングはなぜ稼げないのか?」をテーマに1万8000字にも及ぶインタビューを掲載したところ、SNSを中心に話題を呼び、格闘技業界を越えて様々な意見が寄せられることになった。

後編となる今回は土屋が課題としているチケットの手売り事情をはじめ、現役時代の練習メニュー、プロ選手としての意識のあり方について掲載している。

インタビューの模様はこちら

ーここからは前半でも話が出ていたチケットの手売り事情について伺います。ボクサーにとってチケットの手売りが主な収入源になっているとお聞きしましたが、土屋さんは人気が高くチケットが捌ける選手としても有名でしたよね。それはどのようにして販売していたんでしょうか?

チケットは400枚以上売れていましたね。もう営業の毎日でした。試合前に4週間あるとすれば、週6日で月に24回は集客と付き合いで飲みに繰り出してましたね。もちろん減量もあるから酒は飲まないんですけど。

簡単な話をするとボクサーは練習するよりチケットを売る営業をしていたほうが儲かるんですよ。飲みにいくときはおごりでいけちゃうし、仮に持ち出しだとしてもチケットを買って貰えれば全然プラスになるじゃないですか。

週6回飲みにいくとして、5000円から1万円のチケットが1回の飲み会で5枚から10枚ほど売れるので、それをだらだらと続けていたらかなりの額になる。

ボクサーや格闘家はバイトしている奴が多いけど、営業力があればむしろバイトをしている時間を営業に使ったほうが全然儲かるんですよ。

ー失礼な質問になりますが、土屋さんはチケットの売上を含めたファイトマネーで生活できていたんでしょうか?

ああ、全然やれてました。チャンピオンになる前くらいかな。僕は嫌われていたところもありますけど、どちらかと言うとチケットが売れるほうだったのでボクシングだけで生活できていました。

そういえば俺、チャンピオンになってから地元の親にぶっちゃけたんですよね。「俺らのファイトマネーチケットなんだよね」って。そしたらスゴく驚かれて、「それは大変だな!!」って。

タイトルマッチで地元から5人くらいしか見に来てないですから我が家は(笑)

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(※2016年12月19日 日本王座獲得時)

確か全日本新人王の時に、地元から親を含めて初めて3人くらいで応援に来てくれたことがあって凄く嬉しかったんです。で次の年の新人王の時に、新聞で同じ愛知県地元の尾川君の応援が地元からバスで200人連れてきたというのを見て唖然として辞めたくなりましたね(笑)

親や地元の後援や応援がある選手は単純に儲かると思います。僕は無かったので大変でしたけど、そのおかげでいろいろ考えることができて結果としてプラスになってますけどね。

そういえばチケットの営業というと、結婚したのがチケットの売上的には結構ネックになってましたね。

ー結婚したらチケットの売れ行きは悪くなるんですか!?

そう。結婚すると女の子のファンには結構ビックリするくらい売れなくなった(笑)

まあ、でもそういう話をするとボクシングって何なのってなっちゃうじゃないですか。そうじゃなくて僕のボクシングの魅力を伝えたくてボクシングをやってるのに、チケットの営業が第一になっちゃったらそれが本業になっちゃうじゃないですか。

それなら全然違う話になっちゃうし、だったらその時間を使ってプロモーションとか、ネットができるんだったらSNSでセルフプロモーションもできるだろうし、そういうことをするべきなの。

今の時代なら広告会社にいったりとか、商品のプロモーションに参加するべきだと思いますし。そういうことをまずはやるべきなのに個人的営業をがんばらなきゃいけないという。

ー営業活動はボクサーとしてのパフォーマンスに影響したのでしょうか?

したと思います。しないように努力してましたけど確実に夜遊び?というか、練習以外のことに割かれる時間が長いのでパフォーマンスは落ちますよね、絶対に。集中力の問題とかもあるし。

それと重要なのが営業が上手いやつのほうが儲かるんですよね。営業が上手い奴はスポンサーとかも一杯ついて、たとえ実力が伴わなくても試合数をこなしていける。そこは成果として出てると思うけど、戦績が悪かったりしてもチケット売れるから試合組まれたり。

そこを頑張ったほうがお金になる。なんだそりゃって。

ーなにかボクサーとしてのハングリーさを示す部分が違っているという印象も受けてしまいますよね。

そうですよね。単純にそっちのほうが儲かるっていうのが問題なんですよ。

それと関係者によく言われるんですけど、「社会に出た時に役に立つから営業頑張れ」って言われるんです。は?何言ってんだ?論点のすり替えしてんじゃねぇよって。営業マン育てたいのかって思うこともありましたね。

まぁ例えばですけど、来週試合があるとするじゃないですか。それでどうしてもチケットを売ろうと思ったらその辺で土下座でもしまくればみんなチケット買ってくれますよ。

極端な話、それを100回くらいやればチケット200枚くらい売れるじゃないですか。でもそれでいいの?って。だから頭下げたもん勝ちみたいな、そんなスポーツはどうなんでしょう。

そんな思いがあるからか僕はチケットを売る時は割りとあんまり下手に出ないようにしていましたけど。

ー少し話が戻りますが、チケットは女性に売ったほうがいいとのコメントがありましたがやはり格闘家はモテるのでしょうか?テレビなどで格闘家の奥さんが登場するシーンを見ると大抵は綺麗な方ですよね。

あー、どうなんでしょう。女性はまず1人では来ないですし単純に楽しければまたリピートしてくれる。そして情報拡散してくれるのは女性です。
あまり良く分からないですけど、僕はどちらかというと多分人気あったほうだとは思いますが。

でもモテることって本当に大切なんじゃないですかね?モテないやつって要するにカッコ良くないってことじゃないですか。リング上でモテるってことなんですけど、実力があるないとは別として、リングでモテる選手は何か違うんですよ。

モテるためは皆もっと努力したほうがいい。俺がモテてたかどうかは別として(笑)

でも「感動」させることって大切なんじゃないかなと思います。感動って感情が動くから感動なんです。それがネガティブだとしてもポジティブだとしてもそうだし、そういう感情の振り幅を持たせてあげると何か人って満足するらしいんですよ。

相手に僕をどうプレゼンするか、自分をどう見てもらうかというのはすごく大事なので。面接だって会社の入社試験とか面接も多分そうじゃないですか。どうやって自分の印象を残すのかという。まあ僕はほとんど受けたことないから分からないですけど(笑)

やっぱりどう自分をアピールするかというのはすごく大事です。今のボクサーたちはアピールする方法を知らないし、自分がどうするべきかということを知らない。そういうのをちゃんとするべきじゃないかということが言いたい。

何か上手くまとめた感じになりましたね(笑)

ーさすがの転換力でした。それでは話のテーマを変えてここからはボクサーの生活についてお聞きしていきます。手売り事情の話で収入についての話は出ましたが、土屋さんはプロ一本で生活をする前はどんなお仕事をされていたのでしょう?

僕はステーキ屋で働かせて貰ってましたね。ランチライムだけなんですけど、週5か週6で勤務してました。

ーボクサーの方って正社員とかバイトの比率はどれくらいなんですか?

正社員の人とかは本当5%くらいじゃないですか。あとはもうみんなアルバイト。さっきも話したように、営業力があってチケットの手売りとかスポンサー収入で暮らしていける選手もいますけど。

ー働いて普段の生活費を稼ぎながらリングに立つのは相当な苦労ですよね。土屋さんは練習だとどのようなスケジュールで行われていたのでしょうか?

週6日ジムで練習して、あと1日は休養日でしたね。ジムでの練習時間は長くても3時間くらいで、そこまで長くなかったです。ランチタイムに働いて、ジムで練習して夜はチケットの営業って感じでしたね。

ー練習メニューはどういった感じだったんでしょう?

基本的にスパーリングが週2か週3。その日によって違いますけど、スパーリングがない時はシャドー、ミットとやって、サンドバッグ打って。あとは筋トレやって、走って終わりみたいな。オーソドックスな感じです。

ースパーリングのラウンド数はどれくらいやってました?

スパーリングは結構やってて10Rくらい。

ー1日でですか?それはかなり多い方ですよね?

10Rやる日もあるし、1週間の合計だと25~26Rくらいかな。結構やってたほうだと思う。僕は個人的には週2くらいでいいんじゃないかなと思いますけど。集中力の問題で。

ー筋トレだと、ウエイトトレーニングはやっていました?

いや、やらないです。自重の筋トレだけです。

ーどういうメニューだったんですか?

筋トレに関しては基本的に腹筋と懸垂だけですね。あとは刺激を入れるスクワットくらいはやりますけど、それくらいですね。スクワットと腹筋と懸垂くらいで。あとはダッシュとかサンドバッグ打ったりとか。

ー結構オーソドックスなイメージがありますが、ボクサーは全般的にそういったメニューなのでしょうか?

全般的にそうだと思います。一般的にはウエイトトレーニングをやっているというイメージがあるかもしれないけど、それを享受できる状況にないというのが大きい。ちゃんとウエイトトレーニングを指導できる人があまりいなくて、そういうのは総合格闘技の方が進んでると思う。

ーフィジカルトレーナーをつけるケースは少ないのでしょうか?

フィジカルトレーナーというのを付けられない状況の人が多いので、そこも課題ではある。結局はお金がないからなんですけど。今思うとフィジカルトレーニングはやっぱり必要ですよね。やってたことは基本的にはダッシュすることです。

ダラダラ走るのは僕はいらないと思うので。週2か週3でダッシュくらいをちゃんとやれれば。個人的にはそれほど走らなくて良い派なんで。

ーボクサーといえば早朝のランニングというイメージがありますが、土屋さんは朝のランニングは行っていなかったのでしょうか?

僕は朝走るのやめて強くなったと思うんで(笑)だって朝起きて走るためには早く寝ないとダメじゃないですか。僕はそれがもうストレスで。それをやめて、練習終わってから走るようにしました。

眠気があるまま意識朦朧としながら走って何の意味があんねんって俺は思ったので。それならテンションが上がってる時に走った方が絶対俺は意味があると思う。個人的な意見ですけどね。

ーなるほど、夜に走っていたんですね

あんなに朝早く起きて寝ぼけ眼で走るみたいなのは、ただ考えるのが面倒で何となくでやってるだけじゃないかと。ダラダラと長距離を走るのも意味ないなと思っていて、長距離をペースを決めて走るのは週2くらいでしたね。

ーその辺りは一般の方が抱くボクサーのイメージ像とは違うかもしれませんね

ボクサーってストイックな存在と思われているじゃないですか。その形式的なイメージが好きじゃなくて、あしたのジョーの固定観念じゃないですけど、減量になると水も飲めません、水道に針金巻いてあって飲めません、みたいな。

でも現代風に言うと「いやコンビニ行けよ力石」って(笑)

僕の中ではですけど、それって別に格好良くないと思うんです。自分の中の格好良いボクサー像というのは色んな人からモテまくって、金のスケールもデカくて、人前で努力をさらけ出さないでリングでは勝っちゃうみたいな。

減量がカッコいいとかストイックなのがカッコいいみたいなのは、昔から引きずられてるイメージだけど今の時代には合ってないと思うんですよ。

ー「ボクサー=ストイック」というイメージは付きまといますよね。

初対面の人に「ボクシングやってるんですよ」と言うじゃないですか。一番最初に質問されるのが「やっぱり減量するんですか?」というもの。

「まあ…しますよ」みたいな。この質問飽きたよって思う。まあ会話のための社交辞令なのかもしれないけど、「ボクサー=減量、ストイック」みたいなパーソナルイメージから抜け出せていないのが嫌でしたね。

ーそのイメージはポジティブとも捉えられるかもしれませんが、ビジネスとして考えると必ずしも良いとは言えないのかもしれないですね。それでは再びテーマを変えて、ここからはボクサーとしての土屋さんについてを掘り下げたと思います。まず土屋修平=ハードパンチャーというイメージがありましたが、これは天性のものだったんでしょうか?

それはボクシングを始めたことにトレーナーについてくれた田中先生(※注・角海老宝石ジムの元チーフトレーナーであり、名伯楽として知られる田中栄民氏)との相性が良かったからです。僕は元々はキックボクシングで格闘技を始めたんですけど、キック時代は全然倒せると思ってなかった。でも田中先生の言ったとおりにパンチを出せば結構相手が倒れてくれた。

練習もしていないのに、いきなり「このパンチ出せ」って試合で言うんですよ。それで出すじゃないですか、倒れるんですよ。すげえなこのジジイ(笑)って思いながらやってました。

だから天性のパンチ力とかではなくて、トレーナーとの相性が良かったからデビューから12連続KOを記録できたし、キャリアでもKOで倒すことが多かったのかなと思っています。

ーそして土屋さんはスリリングな攻防を見せて最後は相手をKOで倒すという試合が多く、ファンから大きな支持を集めた人気選手だったという印象が強いですが

僕はどういう選手として、世間やお客さんに認知させるかをすごく重要視していたんですよ。だからお客さんが僕の何を見たいみたいのかを考えたら、僕が思いきりパンチを打って、相手をぶっ飛ばしてKOで勝つ所だろうなと思ったんですよ。

もちろん時には倒されるかもしれないし、ハラハラするのが見たいわけです。だからお客さんがそれを見たいというのなら、俺はそうするべきじゃないかというのは凄く思っていたこと。

だから僕はチャンピオンになること自体には正直全く興味がなかったんですよ。もちろんチャンピオンになったらより注目されるだろうし、業界内での地位も上がって発言力なんかも強くなることは分かっていました。でもそれ以上にプロとして自分がお客さんにどう見られるかの方を重要視していましたね。

ー勝つことよりお客さんへの価値の提供を優先していたと。

そう。勝つこと自体に俺は興味はないので。…いや前提は勝ちたいですよ、もちろん(笑)

もちろん勝ちたいですけど、自分の立場からして勝つこと自体にそんなに価値があるとは思えなかった。勝つよりもその場を盛り上げることが大事なんじゃないのかと。

ーそこにハードパンチがハマってKOが増えた

あとはタイミングですね。危ないタイミングで打てばみんな倒せるんですよ。それを他の選手がやらないだけで。

ーリスクを取れば倒して勝つ可能性は上がるということですね。

そう。リスクを取るかどうかの問題。それこそ強いような奴らはその感覚があるかないかは別として、割りと倒しに行こうと思えば倒せるはずなんですよ。でも倒しに行かないスタイルの方が確実に勝てる。そうやって勝ちを優先したスタイルを選ぶ選手が多いだけだと思う。

ーボクシングは1敗が凄く重いじゃないですか。1回負けるだけで出世街道から脱落してしまうこともある。だからあまりリスクのある戦いはしたくないというのがあるのかもしれないですね。

正直今時そんなの流行ってねーから、って思うんですよ(笑) そんなのもう流行らないからって。個人的にはですが

ーしかし現実には内容よりも戦績の数字を見て判断されることが多いじゃないですか。それはどうなんでしょう?

それはもちろんすごく大事です。戦績見たら分かりやすいじゃないですか。コイツは勝ちが多いから強くて、負けが多いから弱くて。コイツはパンチがあってというのは戦績を見れば一目瞭然じゃないですか。

それはすごく大事です。その前提は絶対崩してはいけないと思う。
だけど、じゃあそれでお客さんが来るかといったら違うじゃないですか。お前は何をお客さんに求められているんだって。

じゃあ勝てば良いからってしょっぱい試合をするんだったらオリンピックにでも行けば良い。良くアマチュアのエリートとスパーリングして、アマチュアの選手は強いなっていうんですよ。あいつは凄いだとか。

でもその選手に憧れてそうなりたいと思ってる奴は多分あんまりいないんですよ。ただ本当に強くなりたいんだったら、それこそアマチュアでオリンピックを目指した方が試合数も多いし、絶対強くなれる。リゴンドーとかロマチェンコ(注: どちらも軽量級を代表する世界王者)とか2回オリンピックで金メダル取ってるわけですし。その上でプロに来たわけで。
だからただ純粋に強くなりたいというのが目標だったらはじめからそういう所を目指せば良いわけじゃないですか。

むしろ何でみんな目指さないのって思いますし。僕自身はそこにあんまり価値を感じなかったので。プロのリングでワーワー言われるリングに上って、どれだけ観客を盛り上げられるかの方に僕は興味あったので、それだけですね。

ー話は少し戻りますが、土屋さんは元々はキックボクサーでしたが、ボクシングに転向したキッカケはどういう理由だったのでしょうょうか。

大学を卒業する頃まではキックボクシングの試合に出ていたんですが、あんまり大した成績じゃなかったし大学を卒業を機に辞めちゃったんですよね。

それでボクシングを観るのが趣味だったので、趣味としてボクシングジムに通ってみようかなって思って色んな所に見学に行ったんですよ。関東の名門と言われるようなジムを見学して回って、「ボクシングやりたいの?」って聞かれて、「僕やったことないんですよ」って言いながら、ウロウロしてました。

そこで角海老に行ったときに田中先生がいて、「やれよボクシング。いいんじゃねーの。」って言われてチケット渡されたんですよ。

僕は魔裟斗さんが大好きでキックボクサーを目指していたんですけど、K-1に出場するという夢は壊れて叶わなかったのでキックボクシングはもういいかなという思いもあったんですよ。それでボクシングは趣味で始めたんですけど、トレーナーとの相性が良くてすぐにプロテストに合格して、試合にも勝ってという流れで来た感じですよ。

最初は新人王を取れなければボクシングも辞めようと思ってたんですけど、全日本新人王で優勝してMVPにも選ばれて、それで長く続けることになりました。

ーキックボクシングからボクシングでは似ているようで、求められる動きは異なりますがスムーズに転向できたのでしょうか?

僕はキックボクシングが得意じゃなかったんですよ(笑)。特にキックが駄目でそのストレスから開放されたのが大きかったんじゃないのかな。それで肩の力も抜けてくれたのかもしれない。痛いのも我慢しなくていいんだって。

ーキックからボクサーからボクサーに転向すると動きの適応に苦しみそうですが、土屋さんはキックボクサーらしい動きというのは感じられませんよね。

ちょっと前傾というか。ウエイトの乗せ方とか足のスタンスも広かったのもあるんですかね。多分僕はもともとキック向きじゃなかったんです。もう全然ボクシングのほうが戦いやすかった。

ーそしてボクシングで日本王者になるわけですが、多分、プロキックからの転向でプロボクシングで王者になったのって初めてじゃないですか?

そうらしいですね。

ーだからそれも改めて凄いですよね

話は逸れるんだけど、他の格闘技との交流もすべきだと思ってるんですよね。ここがないのもボクシングの業界としての停滞に繋がっているのかもしれない。

俺がビックリしたのは、ボクシングやってるやつってキックとか他の競技のことは全く見ないやつが多いんですよ。だからボクシングのあのしょぼい興行が普通だと思ってるんですよ。だからもっと交流して他の競技も知ったほうがいいと思う。

ー確かに土屋さん以外のボクサーで他競技に言及している人ってあまりいませんよね

そう、誰も見てないんですよね。ボクシングの人たちって、アマチュアボクシング連盟の動画とかは見てるけど、他競技は見ないんです。そこに結構驚きを受けました。演出とかプロモーションとか他競技から学ぶこともあるでしょって。

ー土屋さんはかなりキックやMMAも研究しているように感じるんですが、ボクシング以外も見てるんですね。

見てますね。これは嫁と結婚して言われて気づいたんですけど、相当マニアらしいんですよね(笑)

結婚して「つっちーっていつもボクシング見てるよね」って言われて、動画でチラっと見てたつもりだったんですけど、ずっと見てるらしくて。僕はそんなに意識なかったんですけど。「ほんと好きだよね」って。意識してなかったけど相当好きらしい。

他の競技も見るし、ボクシングも見る。キックも見るし、UFCも見るし。

ーボクサーでそこまで見てる人はいないのでは?

いないですよ。そういないんですよたぶん。

ーK-1やMMAの試合は国内の試合でも5,000人以上の観客の前でやれているじゃないですか。そこで羨ましいと思う所はないですか?

そうなんですよ。そこを羨ましいと思って欲しいじゃないですか。見てないから。

ー選手層などはボクシングの方が高いわけですし、競争を勝ち抜いている選手はもっと注目されるべきだと思います

だからなんでそれをみんな思わないんだろうって感じますし。「あっちは金があるから」で終わらしちゃったら仕方ないじゃないですか。そっちに寄っていくわけじゃないですけど、刺激を受けることも重要だと思う。

みんな知らないんですよね。そういうものがあるっていうことを。

それを悔しくないのって思いますし、それ以上になんであいつらがキャーキャー騒がれているの。なぜ?って考えて、どうすればそうなれるのかを考えないと。

ーそういう会話はボクサー同士ではされないんでしょうか?

会話に上がらないこともないけど、結局なにがいけないって、今のボクシングはチケットを売っていればそこそこ食えちゃう。むしろ考え方によってはいいお金が稼げる。そこが問題なんですよね。

だから業界に対する危機感とかは全くないので。

ー課題として思うのは、失礼ながらボクシングは日本王者とか東洋王者でも実力の割に知名度が低いじゃないですか。

そう。地味な選手だと誰も知らない。

ーそれだけで判断するのもなんですが、SNSのフォロワー数などを見ても少ないですよね

そう。みんな何を考えているんだろうって。

ー競技者として高い質を持っていても、国内ではボクシングよりも他競技のほうが名前が売りやすいという印象があります。

そう。単純にあっちのほうがキラキラしてるんですよね。メディアに出てるし、いくら貰ってるかは分からないけど単純にキラキラしてる。メディアに出てるから、ああ、見たことあるって。

それに彼らは自分をどうアピールすればいいかってのを常に考えていて、そこは考え方の違いですよね。そこはボクサーはみんなアマチュア気質だから、練習を頑張って強くなれば不思議とお金が入ってくると思っている。そこが駄目なところです。考え方の違いですよ。

ーそれとボクシングの課題として感じているんですが、日本タイトルや東洋タイトルでも映像見るのが難しいということがあって、それが認知度不足の要因かと思います。

そう。それもそうだし、日本王者っていうのはもっと格式が高いものにするべきだと思う。さっき言ったチャンピオン・カーニバル(※前編を参照)の話じゃないけど、ここを目指すというビジョンが必要だと思う。今は世界チャンピオンからがスタートみたいなところがあるじゃないですか。

そうじゃなくて国内にも選手がこれだけいるんだから、日本王者もそこの競争を勝ち抜いているわけじゃないですか。日本王者になるのって結構大変なんですよ。それなのにそこを全くプロモーションしない業界はどうなんだって。要は見せ方の問題。日本王者の格式をどうやって上げるかというのは個人的に課題を感じてます。

ー日本タイトル戦がドカンとやられた試合といえば「畑山vsコウジ有沢」ですよね

そう。あれくらいでやるべきなんですよ。日本タイトルっていうのは。

ー野球で言えば日本シリーズがそうですし、Bリーグも初年度のチャンピオンシップは大いに盛り上がりました

そういうことなんですよ。その辺は見せ方ですよね。世界戦じゃなくても日本で需要があればいい。世界タイトルマッチだって日本人同士でやったほうが盛り上がるんだし、だったらもっと手前の日本人同士の試合のバリューを上げて、やってたほうが絶対に経済的でしょう。

ー今は上手く回ってないというより知らないですもんね。

日本王者の格式を上げるのが結構大事だと思う。日本リーグみたいな感じでしっかり作って、しっかりブランディング出来れば。それこそ年に1大会でもいいし。チャンピオン・カーニバルがドーンとあればいいと思う。誰か投資してくれないかなと(笑)

ー他競技からボクシングに転向された土屋さんならではの視点ですね。ではボクサー同士の交流はどう感じますか。

僕は逆にボクサー同士では仲良くしないようにしていたので。キックボクサーは全く違う業種だから会話はしましたけど、他のジムのボクサーとは全然交流持たないようにしていたんで。

そこら辺もできてない一般ボクサーが多いじゃないですか。他のジムの選手と仲良くしちゃってる奴が多い。凄いですよね。これから戦うかもしれないのに仲良くしちゃうのが。やっぱりそこは距離を置くべきだと思います。「アイツぶっ殺してやる」って言いながら、TwitterやFacebook上でイチャイチャしていたら、そんなの面白くない、ファンが見たら興ざめじゃないですか。

ー土屋修平というボクサーがそうやってはみ出して生きられたのかと言う原点はどこにあるんですか。

僕にとって一番大きいのは深津飛成さんの存在ですね。キックボクシング時代の先輩で、新日本キックボクシングの日本王者だった。

あの人はプロはこうあるべきだという詩人的なところがありまして。プロで人前に上がるということは、人前で果し合いをするんだ。真剣で切り合うんだ。そんなチャラチャラしてるんじゃねえって、圧力が凄かった。

そういう見世物をするんだったら。お前らはお金を頂いているんだ。そういう中でどんな見世物をできるのかをちゃんと考えろ。お前は最高の見世物になるかを考えろ。ってずっと言ってくるんですよ。

そして普段の立ち振る舞いも結構すごかったんですよ。ジムでの振る舞いとか、俺は王者なんだっていうのが。それは良いか悪いかは別としてですよ(笑)そのオーラと言うのが凄くて、俺はこうなりたいというのが大きかった。

深津さんはもちろん試合が終わっても、挨拶とかに出てこないし。挨拶なんかするやつに誰が憧れるんだ、そんな色気のないやつはダメだと。そういうのをずっと教えられてきたんで。あっちはどう思ってるのか分からないですけど(笑)

そこですね。お前は商品なんだよっていうのを凄く言われたんです。「あー、俺は商品なんだ」って。みんな自分のことを商品だとは思ってないんですよ。そこは凄く大事だと思うのに。

ーその意識を付けるのは難しいですよね

カッコいいモデルがいないとなかなか話が伝わらないというか。例えばそのジムで一番強いやつがどういう振る舞いをしているかによって決まって来ると思うんですよね。

だからジムの一番強くて影響力があるやつが、「お前ちゃんと営業いけよ。ちゃんと挨拶いけよ」なんてヤツだったら、自ずと後輩もそういう風になっていってしまう。

そういう教育指導というか、カリキュラムとまでは行かないですけど、どうあるべきかという統一意識みたいなのが一番大事ですよ。最初に言いましたけど、一番大事なのは選手の意識改革。それが一番安上がりで一番変えられる手段だと思います。

ーそういえば昨年バスケットボールのBリーグが一気に改革に成功してスタートしたというのは意識してますか?

意識してます。実は俺はBリーグの運営に履歴書送ったんですよね。今年の初めくらいに。で、結局落ちたんですけど(笑)

落ちたーってなって。いや落ちると思ってましたけど、やっぱ落ちたわって(笑)だって履歴書なんてボクシングのことしか書けないじゃないですか。

ー面白いから一回くらい面接通しちゃえ、みたいにはならないんですね

そう、一回くらい面接通してくれって期待してたんですけど、全然。とりあえず履歴書送ってみて、この業界がどうやって成り立ってるのか知りたくて。

ーBJリーグとJBLリーグという2つのリーグが存在してそれぞれ険悪なムードだったのが、そこから短期間ででまとまってビジネスとして成立している

あれは川淵さんが凄いんですけど。そのニュースとかもメチャメチャ読みましたもん。川淵すげーって。Bリーグで「第2の川淵を目指せ」みたいな人を募集する要項があったんです。それに応募したら落ちたという(笑)

ー沖縄といえばBJで一番人気あって、今もBリーグトップレベルの人気ですよね。劣悪な環境からスタートして、今や3,000人以上を平均で動員するようになってます

そう、3,000人くらいがアベレージで入っていて、今度は1万人くらいのスタジアムを作るという。それも成功するかどうかは分からないですけど、それが地域密着で根付いている文化ではあるんです。

ー3,000人って週に2回試合があって、それをコンスタントに集めるのって結構凄いですよね。

そう、試合数多いんですよね。

ー3,000人を格闘技で集めるのは凄く難しいですし

まあでも格闘技の弱いところの一つとして、年間試合数が少ないんですよ。新人王とかのトーナメントの場合は別ですが、試合の年間スケジュールが決まっている訳ではないので。

年間3回とか4回しか表に出られないということは結構なプロモーションのリスク。野球だったら年間140試合あるから、140回表に出て、それだけお客さんが出入りしていてお金を稼げる。

それに対して3回しか出られないとなると全体のボリュームがかなり小さくなっちゃう。そこはちゃんと考えてやらないとなって。怪我したら1年棒に振って無収入になっちゃうこともありますし。

ー格闘技だと試合前後以外の日常がクローズアップされることもあまりありません

だったらなおさら試合の前後でもうちょいプロモーションを頑張れよって思います。

ービジネスとして考えると年間に出場できる試合数が限られている中で、いかに選手と運営が選手の価値を高めるためにプロモーションを行うのかが重要になりそうですね。そういえば土屋さんはボクシングを引退されてからは何をされているんですか?

今年引退してからはあいさつ回りとかでバタバタとしてました。僕は引退前からスポーツビジネスをしたいって思っていて、沖縄に移ってである事業に関わることになりました。

ーそれは移住して仕事を行うということですか?

そうですね。沖縄本島で結構中心地のところに近い場所に住んで働きます。沖縄は家賃が東京の半分くらいなのが良いですね。

ーかなり思い切った決断ですよね。東京は家賃が高くて広い部屋に住むのは難しいですが、沖縄の部屋は広いんですか?

広さ的にはほとんど変わらないですね。今の部屋はちょっとイキりすぎて無駄に広いところを借りたんで(笑)なんかよくあるじゃないですか。芸人が出世するために家賃の高いところに住むみたいな。そういうイメージですね。ちょっと調子乗って広い所に住んで見たものの、使ってない部屋もあるみたいな。

ーそれはいつ頃の話なんですか?

今の家はちょうど1年ちょい前くらいから。チャンピオンになる前に高いところにいっちゃおうぜと。ちょうど子供が生まれたところで。広いところ借りちゃったんですけど、すぐにチャンピオンじゃなくなっちゃったんで。じゃあどうしようかなって。沖縄いっちゃう?って。そしたら嫁に怒られて(笑)

ーいきなり沖縄に移住しようってなったら奥さんも戸惑いますよ

嫁が「仕事辞めたい」って言ってたから、「じゃあ沖縄行こうぜ。もう決めたから」みたいな感じで話したらめっちゃ怒られて。「ええ〜仕事やめたいって言ってたのに?」と言ったら「これとそれとは違うわ」って言われて揉めましたね(笑)

南の島に住みたいって言ってたじゃんって。それを真に受けて「南の島だよ」って言ったらめっちゃキレられて(笑)ええ〜みたいな。

ー…それは怒られますよ。今は納得してもらえたんですよね?

そうですね。その騒動は一日で終わりましたけど。冷静に考えたら嫁はすごいなって。いろんな人に話すじゃないですか、女の人にも。そんな話したら「嫁さんすごいね。よく別れられないね」って言ってくるから、「え、そうなの?」って。今は反省してます。

最近気づいたのは夫婦っていろいろ大変なんだなって。結婚して3年目くらいで気づきました(笑)

ー沖縄からはしばらくは帰って来られないのでしょうか?

しばらくは帰らないですね。ちょくちょくは帰ってこれるようにはしたいですけど。まあでもSNSとかネットでなんでもできるじゃないですか。だからパソコンはもっと勉強しないとなって(笑)

あと沖縄ではバスケットボールの専用スタジアムを作るっていう計画が進んでいて、そこに携わっている方とも親交があるので、そのノウハウを学びたい。

ーそれは将来的にはボクシング界にビジネスとして帰ってきたいという思いからなのでしょうか?

帰ってきたいというより、ボクシングに限らずスポーツエンターテインメントをやりたいのと、後はさっき言った(※前編を参照)格闘技のスタジアムを作りたいというのがある。

別にボクシングに特化する必要はないです。僕はボクシングが好きですけど、特化するというよりもエンターテインメント、ショービジネスを本当はやりたいんです。

ー選手上がりでそれを実現させた先駆者というのはいるのでしょうか?

特にいないんですよ。

ーということは土屋さんが第一号になる予定だと

そうなりたいですよ。なりたいですけど、なれるかは分からない。前のTwitterのボヤ騒ぎもそうですけど、変えたい人はたくさんいるわけですよ。この業界を変えたい、もっと良くなって欲しいという人はたくさんいて、そいつらがみんな同じ方向を向けば変わるものがあるはずなんですよ。

さらにいえばそこに資金力がある人が入ってくれれば良いというのもあります。

ー土屋さんはそういった所に違いがあって、こうしてインタビューをお願いしたわけですし、無責任な言い方にはなってしまいますがいつかぜひチャレンジしてほしいです

それはやりたいですよね。やりたいことは本当にたくさんあって金持ちならやりたいんですけど(笑)

やるとしてじゃあどうするかというのもありますし、皆やりたいとは思ってるんですよ。盛り上がればいいし、儲かれば良いと思うけど実際は儲かってない。だからそいつらをどう同じ方角に向けさせるかというのが凄くテーマだと思いますし。

俺がパッと強く言えば良いかと言えばそうでもないし、そこまでの影響力はない。そこは一回沖縄でビジネスモデルを立ち上げて、しっかり箔をつけてというのが良いと思いますし。

その…なんだろうな。説得力ですよね。説得力とついてくる人間がいるかどうかという。それが一番大事だと思います。

そもそも世界的に見てもボクシングを含めた格闘技って、結構リスクの高い商売、水物じゃないですか。バーンと盛り上がってもすぐに下火になるのが定番なので。だからそれがどうするかってことなんですけど、ボクシングっていうのは幸い普遍的なものが一応あるはずなので。

ーボクシングの場合は競技という土壌があるから今は安定して運営されていますし、世界戦となればテレビには常に露出し続けていますよね。

そう。絶対層というのがあるわけじゃないですか。世界中でボクシングが行われていて、それを通じてオリンピック競技であって、世界一個人で稼げるアスリートはメイウェザーというボクサーっていうのは強みだと思う。そして日本でボクシングをやってるのはJBC一つしかない。じゃあどうするのかというところで僕はいくつか変えたいなと思うところはある。

それを変えるにはまず選手の意識から変えて、そういう動きを作って。選手会を作るのが一番具体的かなと考えているんですけど。じゃあそれをどうやって、どういう連絡網にするのか、どういう統一組織にするのかというのは結構難しんいところではあるんですけど。

ーそこは沖縄でまずはビジネスを成長させてということですね。先ほどから思っていましたが、まさしく「ボクシング界の本田圭佑」ですね

いやいや、もう違いますねぇ(※本田圭佑風)。パソコンの使い方とかもよく分かってないですし(笑) ビジネスマン?としてはこれから勉強していかなければならないと思っているので。

傍から見ればセカンドキャリアってことになるのかもしれないけど、さっきも言ったようにボクサーとして培ったもの、学んだものを活かして沖縄で事業を成功させたいですね。

ボクシングをより良くしたいという思いはみんな同じだと思うし、その思いで今回色々話させてもらったので、土屋やっぱムカつくって思われることもあるかもしれないけど、何か変わるキッカケになればと思います。

ーなるほど、長時間のインタビューありがとうございました。土屋さんのボクシングに対する思いがよく伝わってきましたし、何かを変えてくれそうという期待感も同時に受けました。今後のご活躍をお祈りします。

土屋修平プロフィール

1986年9月20日生まれ。愛知県犬山市出身。第60代日本ライト級王者。

幼少期から空手に取り組み、学生時代は様々な球技を経験。大東文化大学時代からキックボクサーとしてのキャリアを積み、キックボクシングでは13戦8勝4敗1分で新日本キックボクシング協会ウェルター級でランキング入り。

やがてボクシングへ転向すべく、角海老宝石ジムに入門。22才の2010年よりプロボクシングでデビューし、デビュー以来12戦連続でKO勝利を収め、ホープとして将来を嘱望される。

2013年に初黒星を喫した後に、紆余曲折を経て、2016年12月に26戦目となる日本ライト級王座決定戦に出場し、3回KO勝利を収めて日本王座を獲得。

初防衛戦で日本王座から陥落後、2017年6月に再起戦で勝利するもリング上で引退を発表。惜しまれながらも現役生活にピリオドを打っている。

クイール編集部 ◯文 text by Queel
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